養親(被相続人)から相続財産全部の包括遺贈を受けた者は、養子縁組の無効の訴えにつき直ちに法律上の利益を有するとはいえないとされた事例【最判平31.3.5】

弁護士

下田 俊夫

  • 1 はじめに

     養子縁組の無効の訴えは、縁組当事者以外の第三者でも提起することができる確認の訴えであるとされています。また、この訴えの確定判決には対世効(判決の効力が当事者だけではなく第三者にも及ぶこと。)があります(人事訴訟法第24条1項)。
     もっとも、誰でも養子縁組の無効の訴えを提起することが認められるわけではなく、養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は、養子縁組の無効の訴えについて法律上の利益を有しないとされています(最判昭63.3.1民集42.3.157、判タ664.54)。
     養親(被相続人)から相続財産全部の包括遺贈を受けた者が、養子縁組の無効の訴えについて法律上の利益を有するか否かが争いとなった事案で、最高裁判所が、法律上の利益を認めた控訴審判決を破棄して、直ちに法律上の利益を有するとはいえないとの判断を示しましたので、紹介します。

  • 2 事実関係及び裁判所の判断

    (1) 関係者は、養親(被相続人)B、養子C(Bの夫の甥)、Bから全部包括遺贈を受けたX(Cの姉の夫)です。XとBとの間に親族関係はありません。
    (2) Bは、相続財産全部をXに遺贈する旨の遺言を作成し、その後、Cを養子とする養子縁組を行いました。
    (3) Bが亡くなった後、XはBの遺言により相続財産全部の包括遺贈を受けました。その後、CはXを被告として遺留分減殺請求訴訟を提起しました。他方、XはCを被告として本件である養子縁組無効確認請求訴訟を提起しました。
    (4) 一審は、Xは養親Bの親族ではなく、Bから包括遺贈を受けた者であるにとどまるから、養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者にはあたらず、法律上の利益がないとして、Xの訴えを却下しました。
    (5) Xが控訴したところ、控訴審は、Xは養親Bとは親族関係にないが、養子Cとは親族関係(2親等の姻族)にあること、また、Bの全部包括遺贈の遺言により相続人と同一の権利義務を有する地位を取得しており(民法990条)、Bの包括受遺者という地位は養親Bの相続に関する法的地位であることから、法律上の利益を有するとして、一審判決を取り消しました。
    (6) 上告受理申立てがなされ、最高裁判所は、養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は、養子から遺留分減殺請求を受けたとしても、当該養子縁組が無効であることにより自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない、したがって、養子縁組の無効の訴えを提起する者は、養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえない、と判示しました。そして、事案に対する判断として、XはBの相続財産全部の包括遺贈を受けたものの、Bとの間に親族関係がなく、Cとの間に義兄(2親等の姻族)という身分関係があるにすぎないから、養子縁組の無効により自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることはなく、法律上の利益を有しないとして、控訴を棄却し一審の判断を是認しました。

  • 3 コメント

     養親から全部包括遺贈を受けた者の立場としては、養親と養子との養子縁組の有効性に疑義ある場合、その養子縁組が無効であることが訴えにより確定されれば、養子から遺留分減殺請求の訴訟を提起されたり、包括遺贈の遺言が無効であることの確認を求める訴訟を提起されたりしないという利益を受けることができます。そのため、先決問題として、養子縁組の有効無効を訴訟で決着つけたいと考えることがあります。
     本判決によれば、たとえ養子縁組が有効になされているか疑義があったとしても、養親から全部包括遺贈を受けているということだけで直ちに法律上の利益が認められることはないため、無意味な訴訟を提起することがないよう留意する必要があります。
     なお、本事案における包括受遺者が自己の権利利益を防御するためには、遺留分減殺請求訴訟など個別の法的手続において養子縁組の無効を主張すればよく、養子縁組の無効の訴えが提起できないとしても過度に不利益が生じることにはなりません。