弁護士
篠田 大地
民法994条1項は、「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」と規定しています。そして、「相続させる」遺言についても、相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、特段の事情がない限り、その効力を生ずることはない(最判平成23年2月22日)、とされています。
それでは、死因贈与についてはどうでしょうか。この点についての裁判例を以下でご紹介いたします。
(1)丙川春子、被告、甲野一郎は、兄弟であり、甲野一郎には、妻である甲野夏子と子である原告がいました。
(2)丙川春子は、不動産を所有していました。
(3)丙川春子は、平成11年4月4日ころ、弟である甲野一郎に対し、自己の死亡を原因として本件不動産を贈与しました。
(4)甲野一郎は、平成15年3月29日に死亡しました。
(5)丙川春子は、平成19年4月7日に死亡しました。
(6)甲野夏子と原告との間において、平成19年6月30日、原告が本件不動産を単独取得するとの遺産分割協議が成立しました。
(7)そこで、原告は、被告に対し、所有権に基づき所有権移転登記手続を求めて訴訟を提起しました。
受贈者である甲野一郎が、贈与者である丙川春子より先に死亡しているため、受贈者が贈与者より先に死亡した場合の死因贈与の効力が問題となりました。
この点、裁判例では、死因贈与は贈与者と受贈者との間の契約である以上、贈与者の意思で一方的に撤回することはできないうえ、契約成立の時点において、受贈者には贈与者の死亡によって当該死因贈与の目的物を取得できるという期待権が生じているといえること、また、民法994条1項を死因贈与に準用する旨の明文の規定がないことを理由として、受贈者が贈与者より先に死亡した場合、死因贈与は効力を生じないとはいえないと判示しました。
そして、受贈者が先に死亡したとしても、その後、贈与者が死亡した場合、死因贈与は効力を生じ、当該死因贈与の目的物は受贈者の遺産になると述べ、結論として、原告の請求を認容しました。
死因贈与については、民法554条において、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用するものとされています(この点に関する詳細は、相続コラム「死因贈与について」をご確認ください。)。
そのなかで、本裁判例は、民法994条の準用を否定しました。
死因贈与について民法994条が準用されるか否かは学説も分かれているところです。
本裁判例では、「受贈者に死因贈与の目的物を取得できるという期待権が生じていること」が理由のひとつとなっていますが、一方で、民法550条によれば、書面によらない贈与は、履行の終わった部分を除き、撤回することができるとされていますので、受贈者の期待権をどこまで重く見るかは、評価の分かれるところだと思います。
このように、本判決が確定した見解ではないことからすると、事前の安全策としては、仮に、死因贈与契約後に、受贈者が先に死亡し、贈与者が受贈者の相続人に死因贈与をしたいという場合には、改めて相続人との間で死因贈与契約を締結しておいたほうがいいといえるでしょう。