弁護士
篠田 大地
相続財産に、賃貸用不動産がある例も多いと思います。
特に昨今では、相続税対策として、アパート経営などが利用される例もあることから、今後はますますこのような例も増えていくことと思います。
遺産分割方針をめぐって相続人間に争いがある場合、賃貸用不動産は、主に不動産の持分を誰が取得するのかという点が問題になることが多いと思いますが、紛争が長期化した場合、相続開始時から遺産分割までの間の賃料額も多額になることもありえます。
このような場合、この賃料額の取扱いを巡っても、独立に紛争の種になることがあります。
以下では、相続開始から遺産分割までの間の相続不動産から生ずる賃料債権の帰属について判断した最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決をご紹介いたします。
被相続人は多数の不動産を所有していたところ、平成8年10月に死亡しました。
相続人は、後妻(被上告人)と、前妻の子ら(上告人)がいました。
相続人間では、平成12年2月に各不動産について遺産分割審判がなされ、確定しました。
この遺産分割審判では、収益が大きい不動産について、後妻(被上告人)が取得しました。
平成8年10月から平成12年2月までの賃料収入が約2億円ありましたが、その分配方法について相続人間で争いになりました。
すなわち、後妻(被上告人)は、遺産分割審判で収益が大きい不動産を取得したことから、遺産分割審判に沿った内容での計算方法を主張し、前妻の子ら(上告人)は法定相続分に沿った内容での計算方法を主張しました。
そこで、相続開始時から遺産分割までの間の賃料収入について、不動産の法定相続分割合で配分するのか、遺産分割審判に基づく割合で配分するのかが問題となりました。
第1審、控訴審では後妻(被上告人)が勝訴しましたが、最高裁はこれを破棄し、差し戻しました。
すなわち、最高裁判決では、相続開始から遺産分割が確定するまでの間に不動産から生じた賃料債権は、その相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、これを前提に清算されるべきとしました。
そして、その理由としては、遺産は、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものであるからと述べました。
また、遺産分割が遡及効を有することについては、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないと述べました。
本件判決により、相続開始から遺産分割までの間の、相続不動産から生じる賃料債権の分配方法の基本的な考えが明らかになりました。
すなわち、相続開始から遺産分割までの間の賃料債権は、遺産分割の結果に基づいた配分ではなく、法定相続分に応じた配分を行うというものです。
もちろん、相続人間で合意をすれば、これと異なる取扱いをすることも可能です。
しかし、遺産分割協議書等で賃料の帰属を明示的に定めておかない場合は、上記のとおり、遺産分割による相続不動産の取得者と、相続開始から遺産分割までの間の賃料の取得者とが異なってしまう可能性があるため、注意が必要です。
実際の紛争が生じるケースでは、収益がいくらであるかという点とともに、ここからどのような費目を差し引くことができるかという点が争われることがあります。
賃貸用不動産の場合、収益がある一方、管理費等の経費もさまざまな項目で多数存在します。これらも必要な管理費等については、控除することが考えられますが、維持管理費、公租公課、保険料、減価償却費、管理人報酬などのうち、どのような費目が控除可能で、どれができないのかについて、争いが生じる可能性があります。
また、経費の他にも、控除することが争われる可能性があるものとして、収益管理者が立替えた、賃貸不動産に関する借入金債務の返済金、相続税、葬儀費用などが考えられるところです。
上記判例は、遺言がないケースでしたが、遺言があるケースは以下のように考えられます。
遺言がある場合には、遺言内容にもよりますが、当該収益不動産について、明示的に遺贈先や相続させる先が明示されている場合には、死亡直後より、遺言内容に従って、物権が移転し、それに基づいて賃料債権も帰属することになるものと思われます。そこで、賃料債権も相続開始時から遺言に記載された相続不動産の取得者が取得するものと考えられます。
また、遺言がある場合は、遺留分減殺請求権が行使されることも考えられますが、遺留分減殺請求権行使前については、遺言内容に応じた不動産の取得割合で収益を配分し、遺留分減殺請求権行使後については、遺留分減殺請求権行使結果に応じた不動産の取得割合で収益を配分する必要があると考えられます(民法1036条)。
もちろん、この場合でも、相続人間で合意すれば、これと異なる取扱いをすることも可能です。
その他の点については、「遺産分割協議までの賃貸不動産からの収入はどのように扱われますか」をご覧ください。